大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和44年(わ)155号 判決 1985年3月29日

国籍

朝鮮(慶尚南道固城郡永県面蓮花里五五〇番地)

住居

京都市左京区吉田神楽岡町四三番地

会社役員

中山政夫、金奇泰こと金竒權

一九二四年三月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山下守英、主任弁護人柴田茲行各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。訴訟費用中、証人田村辰雄(ただし、第五四回、第六四回及び第六六回各公判期日における分)、同洪仁卓、同金鳳永及び同金孝に各支給した分は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、京都市南区西九条比永城町三五番地の一所在のパチンコ店「パラダイス」内に本部事務所を置き、京都市内等においてパチンコ店五店を経営し、その業務一切を統轄掌理していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和四〇年分の総所得金額は、事業所得、給与所得、不動産所得及び雑所得を合わせて三三〇四万八五一三円で、これに対する所得税額は一七二八万九九〇〇円であつたにもかかわらず、銀行預金の一部に架空名義を使用し、右営業による売上金の一部を右架空名義の預金に入金し、給与所得、不動産所得及び雑所得については所得額確定申告書にその所得税を記載しないなどの不正の方法を用いて所得を秘匿したうえ、昭和四一年三月一五日京都市下京区間之町通五条下る下京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得は事業所得のみからなり、その金額は四三八万一五〇〇円で、これに対する所得税額は一一九万九六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一六〇九万〇三〇〇円を免れ、

第二  昭和四一年分の総所得金額は、事業所得、給与所得、不動産所得及び雑所得を合わせて五〇八四万九八一九円で、これに対する所得税額は二九〇七万七六〇〇円であつたにもかかわらず、前同様売上金の一部を架空名義の預金に入金し、雑所得については所得税確定申告書にその所得額を記載しないなどの不正の方法を用いて所得を秘匿したうえ、同四二年三月一五日前記下京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得は事業所得、不動産所得及び給与所得からなり、その金額は七〇四万六三六二円で、これに対する所得税額は二三六万六〇七〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二六七一万一五三〇円を免れ、

第三  昭和四二年分の総所得金額は、事業所得、給与所得及び雑所得を合わせて三七〇一万三五八八円で、これに対する所得税額は一九七六万五二〇〇円であつたにもかかわらず、前同様売上金の一部を架空名義の預金に入金し、給与所得についてはその一部を、雑所得についてはその全部を所得税確定申告書に記載しないなどの不正の方法を用いて所得を秘匿したうえ、同四三年三月一四日前記下京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得は事業所得及び給与所得からなり、その金額は五二八万七四六一円で、これに対する所得税額は一五〇万七二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同年分の正規の所得税額を右申告税額との差額一八二五万八〇〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

物証についても証拠等関係カードの番号で表示し、押収番号及び数量は挙示しない。

判示事実全部について

一、被告人の当公判廷における供述(第九五ないし九八回公判)

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第二三七号)

一、被告人作成の各供述書(弁第三六ないし三八号)

一、証人洪仁卓(第八七回ないし八九回公判)、同金孝(第九〇回公判)、同李鉱在(第九三回公判)及び同新川こと李証人(第九三回公判)の当公判廷における各供述

一、公判調書中の証人田村辰雄の供述部分(第五四ないし五六、五八、六四ないし六六、六八、六九、七一、七三、七四、七六回公判。但し、第六八回公判での証拠排除部分を除く。)

判示第一の事実について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六五、七二号)

一、所得税確定申告書謄本(検第一三四号)

別表1の(1)の記載の昭和四〇年分修正損益計算書<1>「売上」科目について(以下「40―<1>売上」のように勘定科目番号のみ記載する。)

一、公判調書中の証人西村栄美子(第七〇、七五回公判)及び同品川喜代子(第七七回公判)の各供述部分

一、証人原田洋子に対する当裁判所の尋問調書

一、品川喜代子(抄本。検第一一三号)及び溝田洋子(検第一一四号)の検察官に対する各供述調書

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六六ないし六八、七一号)

一、金進洙(検第六九号の一)及び浦上彦(検第七〇号)作成の確認書

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)、同金銭出納帳(検第二号)、同普通預金元帳(検第三、四号)、同日計表(検第五、六号)、同債権債務記入帳(検第七号)、同総勘定元帳(検第八号)、同賃金台帳(検第九ないし一四号)、同銀行帳(検第二三、三一号)及び同納品書綴(検第二ないし二八号)

「40―<2>年初棚卸、<4>年末棚卸」について

一、押収してある雑資料(検第一五号)

「40―<3>仕入」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六六、七一号)

一、浦上彦作成の確認書(検第七〇号)

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)、同金銭出納帳(検第二号)、同売掛帳(検第一九号)及び同銀行帳(検第二三、三一号)

「40―<5>給料賞与」について

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同賃金台帳(検第九ないし一四号)

「40―<6>公租公課」について

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)、同金銭出納帳(検第二号)、同領収証綴(検第二九、一四二号)及び同銀行帳(検第三一号)

「40―<7>電話料」について

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同領収証綴(検第二九、一四二号)

「40―<8>水道光熱費」について

一、「40―<6>」掲記の証拠(検第一、二、二九、三一、一四二号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

「40―<9>」広告宣伝費、<16>福利厚生費」について

一、「40―<8>」掲記の証拠(検第一、二、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある銀行帳(検第二三号)

「40―<10>交際費、<11>修繕費」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある経費明細帳(検第二〇号)、同個人手形受払帳(検第四三号)及び同請求書・領収証綴(検第一四八号)

「40―<12>消耗品費、<13>支払手数料」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある経費明細帳(検第二〇号)

「40―<14>装飾費、<19>運賃」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同銀行帳(検第三一号)

「40―<15>賄費」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある賃金台帳(検第九ないし一四号)

「40―<17>保険料」について

一、「40―<7>」掲記の証拠(検第一、二九、一四二号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

一、押収してある銀行帳(検第二三、三一号)

「40―<18>会費」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある個人手形受払帳(検第四三号)

「40―<20>雑費」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六六、六七、九四号)

一、中井孝一郎(検第一三二号)、三中西久雄(検第一三二号)、土井準一(検第一四四号)及び加柴良之助ら(検第一四五号)作成の確認書

「40―<21>支払利息」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

一、中井孝一郎(検第一三二号、一四六号)、三中西久雄(検第一三三号)、土井準一(検第一四四号)及び加柴良之助ら(検第一四五号)作成の確認書

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)、同金銭出納帳(検第二号)、同普通預金元帳(検第三、四号)同債権債務記入帳(検第七号)、同総勘定元帳(検第八号)、同銀行帳(検第二三、三一号)及び同取引銀行計算書綴(検第三二号)

「40―<22>減価償却費」について

一、「40―<10>」掲記の証拠(検第一、二、二〇、二三、二九、三一、四三、六三、一四二、一四八号)

一、大蔵事務官作成の減価償却計算書(検第七七号)

一、岡田真智子(検第七八号)及び朴信(検第七九号)作成の確認書

一、谷川淳作成の照会回答書(検第九六号)

一、パチンコ機取替精算書(検第八〇号)

一、押収してある雑資料(検第一五号)及び同契約書綴(検第五一号の二)

「40―<23>図書新聞費、<24>旅費交通費、<25>事務用品費」について

一、押収してある領収証綴(検第二九、一四二号)

「40―<26>除去損」について

一、パチンコ機取替計算書(検第八〇号)

「40―<27>雑収入」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

一、押収してあるメモ帳(検第一六号)

「40―<28>仕入割戻し」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第七一号)

一、松野たみ作成の確認書(検第七三号)

一、中野恒夫(検第七四号)及び富山豊(検第七五号)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)、同リベート計算メモ(検第一七号)及び同煙草売上帳(検第一八号)

「40―<29>給与所得」について

一、柿田勲作成の確認書(検第八一号)

一、押収してある給料支払台帳(検第二二号)

「40―<30>不動産所得」について

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)

「40―<31>雑所得」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、七二、八九、九五、一〇八号)

一、浦上彦作成の確認書(検第七〇号)

一、パチンコ機取替計算書(検第八〇号)

一、富山豊(検第八三号)及び吉田政市(検第八六号)作成の照会回答書

一、遠藤忠雄作成の供述書(検第八八号)

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同銀行帳(検第三一号)

「40―<32>事業専従者控除」について

一、所得税確定申告書謄本(検第一三四号)

「40―<35>立退料」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)

一、パチンコ機取替計算書(検第八〇号)

一、押収してある請求書・領収証綴(検第一四八号)

一、登記官作成の不動産登記簿謄本(弁第一七ないし一九号)

判示第二の事実について

一、大蔵事務官作成のてん末書(検第八九号)

一、所得税確定申告書謄本(検第九八号)

別表2の(1)「41―<1>売上」について(以下いずれも別表2の(1)関係)

一、賃金台帳(検第九ないし一四号)を除く「40―<1>」掲記の証拠(検第一ないし八、二三、二六ないし二八、三一、六三、六六ないし六九の一、七〇、七一、一一三、一一四号。)

公判調書中の証人西村栄美子、同品川喜代子の供述部分。

証人原田洋子に対する当裁判所の尋問調書)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第七二、九五号)

一、中井孝一郎(検第九三、一三二号)及び三中西久雄(検第一三三号)作成の確認書

一、大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書(検第一三七号)

一、押収してある雑資料(検第一五号)、同普通預金他店券入金控(検第二五号)及び同領収証綴(検第二九号)

「41―<2>年初棚卸、<4>年末棚卸、<5>給与賞与」について

一、押収してある雑資料(検第一五号)

「41―<3>仕入」について

一、「40―<3>」掲記の証拠(検第一、二、一九、二三、三一、六三、六六、七〇、七一号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第七六号)

一、押収してある煙草売上帳(検第一八号)及び同領収証綴(検第二九号)

「41―<6>公税公課」について

一、「41―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、押収してある経費明細帳(検第二〇号)

「41―<7>電話料」について

一、「40―<7>」掲記の証拠(検第一、二九、一四二号)

「41―<8>水道光熱費、<9>広告宣伝費、<10>交際費、<11>修繕費、<12>消耗品費、<13>支払手数料、<15>賄費、<17>保険料、<18>会費、<23>図書新聞費」について

一、「40―<9>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、一四二号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六六号)

「41―<14>装飾費、<18>運賃」について

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同銀行帳(検第三一号)

「41―<16>福利厚生費」について

一、「41―<8>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、六六、一四二号)

一、押収してある個人手形受払帳(検第四三号)

「41―<20>雑費」について

一、「41―<8>」掲記の証拠(検第一、二、二三、二九、三一、六三、六六、一四二号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六七号)

一、中井孝一郎(検第一三二号)、三中西久雄(検第一三三号)作成の確認書

一、押収してある取引銀行計算書綴(検第三二号)及び同個人手形受払帳(検第四三号)

「41―<21>支払利息」について

一、「40―<21>」掲記の証拠(検第一ないし四、七、八、二三、三一、三二、六三、一三二、一三三、一四四、ないし一四六号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六六ないし六八、七二号)

「41―<22>減価償却費」について

一、「40―<22>」掲記の証拠(検第一、二、一五、二〇、二三、二九、三一、四三、五一の二、六三、七七ないし八〇、九六、一四二、一四八号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六六号)

「41―<24>旅費交通費、<25>事務用品費」について

一、押収してある領収証綴(検第二九、一四二号)

「41―<26>除去損」について

一、パチンコ機取替精算書(検第八〇号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第九五号)

「41―<28>仕入割戻し」について

一、「40―<28>」掲記の証拠(検第一、一七、一八、七一ないし七五号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第九七号)

「41―<29>給与所得」について

一、「40―<29>」掲記の証拠(検第二二、八一号)

「41―<30>不動産所得」について

一、押収してある当座勘定(検第一号)

「41―<31>雑所得」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六六ないし六八、七二、九五、九七、一〇〇、一〇二、一〇三号)

一、浦上彦作成の確認書(検第七〇号)

一、押収してある当座勘定帳(検第一号)及び同銀行帳(検第三一号)

「41―<32>事業専従者控除」について

一、所得税確定申告書謄本(検第九八号)

判事第三の事実について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六七、一〇七、一〇八号)

一、所得税確定申告書謄本(検第一一〇号)

別表3の(1)「42―<1>売上」について(以下いずれも別表3の(1)関係)

一、公判調書中の証人西村栄美子(第七〇、七五回公判)及び同品川喜代子(第七七回公判)の各供述部分

一、証人原田洋子に対する当裁判所の尋問調書

一、溝田洋子の検察官に対する供述調書(検第一一四号)

一、押収してある日計表(検第五、三四、一三八、一四一号)、同営業日報綴(検第三三、一四三号)、同売上日報(検第三五、三六、一四〇号)、同銀行帳(検第三七号)、同ノートブック(検第三八号)、同パチンコ玉統計(検第三九号)、同統計帳(検第四一号)、同売上景品メーター控帳(検第四二号)及び同売上帳・景品メーター帳割数表(検第一三九号)

「42―<2>年初棚卸、<4>年末棚卸、<5>給料賞与」について

一、押収してある雑資料(検第一五号)

「42―<3>仕入」について

一、浦上彦作成の確認書(検第七〇号)

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第七一号)

一、押収してある煙草売上帳(検第一八号)、同売掛帳(検第一九号)、同銀行帳(検第二三、三一号)、同個人手形受払帳(検第四三号)、同煙草関係領収証(検第四四号)及び同仕入帳(検第四五ないし四七号)

「42―<6>公租公課、<7>電話料、<8>水道光熱費、<9>広告宣伝費、<10>交際費、<11>修繕費、<12>消耗品費、<13>支払手数料、<16>福利厚生費、<17>保険料、<18>会費、<23>図書新聞費」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六六号)

一、押収してある銀行帳(検第二三、三一号)及び同領収証綴(検第二九、一四二号)

「42―<14>装飾費」について

一、押収してある銀行帳(検第三一号)

「42―<15>賄費」について

一、「42―<6>」掲記の証拠(検第二三、二九、三一、六三、六六、一四二号)

一、押収してある営業日報綴(検第三三号)

「42―<20>雑費」について

一、「42―<6>」掲記の証拠(検第二三、二九、三一、六三、六六、一四二号)

一、金填教(検第六九号の二)及び中井孝一郎(検第一三二号)作成の確認書

「42―<21>支払利息」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六六ないし六八、七二、九二号)

一、金進洙(検第六九号の一)、金填教(検第六九号の二)、中井孝一郎(検第一三二号)、三中西久雄(検第一三三号)、土井準一(検第一四四号)、加柴良之助ら(検第一四五号)作成の確認書

一、押収してある債権債務記入帳(検第七、一五〇号)、同総勘定元帳(検第八号)、同銀行帳(検第二三、三一号)、同取引銀行計算書綴(検第三二号)、同サンギン綜合ビル入出金伝票(検第四八号)、同サンギン綜合ビル振替伝票綴(検第五〇号)、同中山観光第五期総勘定元帳(検第五一号の一)及び同不動産売買契約書綴(検第一四七号)

「42―<22>減価償却費」について

一、「41―<22>」掲記の証拠(検第一、二、一五、二〇、二三、二九、三一、四三、五一の二、六三、六六、七七ないし八〇、九六、一四二、一四八号)

一、押収してある仕入帳(検第四六号)

「42―<24>旅費交通費、<25>事務用品費」について

一、「40―<24>」掲記の証拠(検第二九、一四二号)

「42―<26>除去損」について

一、パチンコ機取替精算書(検第八〇号)

一、押収してある中山観光第五期総勘定元帳(検第五一号の一)

「42―<28>仕入割戻し」について

一、中野恒夫(検第七四号)及び富山豊(検第七五号)の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、押収してあるリベート計算メモ(検第一七号)

「42―<29>給与所得」について

一、柿田勲作成の確認書(検第八一号)

一、押収してある中山観光第五期総勘定元帳(検第五一号の一)

「42―<31>雑所得」について

一、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三、六八、七二、九七号)

「42―<32>事業専従者控除」について

一、所得税確定申告書謄本(検第一一〇号)

(弁護人の主張に対する判断)

第一公訴棄却及び免訴の申立てについて

一、訴因の明示、特定義務違反の主張について

弁護人は、本件各公訴事実は刑事訴訟法二五六条三項の訴因の明示、特定義務に違反しているから、公訴棄却の判決をすべき旨主張するので検討するに、本件訴因は、昭和四四年三月一二日付及び同年九月一二日付各起訴状記載の事実(原始訴因という。)から同五二年九月三〇日付訴因変更請求書記載の事実に変更され、更に同五六年一〇月六日付訴因変更請求書記載の事実(最終訴因という。)に変更されたが、原始訴因について訴因の明示、特定に欠けることがない点については、当裁判所が同五一年一一月三〇日の第四〇回公判期日において、「裁判所の見解表明」として詳細に説示したとおりであり、その後最終訴因に至るまで、いずれも所得税法二三八条一項の構成要件に該当する具体的事実の記載が存し、訴因の明示、特定に欠ける点はないから、弁護人の右主張は採用できない。

二、迅速裁判違反の主張について

弁護人は、本件は公訴提起後一六年近く経過した異常な長期裁判であり、審理遅延の原因は、検察官が杜撰な起訴をしたことにあり、本件裁判は憲法三七条一項に違反するから、公訴棄却もしくは免訴の判決がなされるべき旨主張する。

そこで検討するに、本件公訴提起は昭和四四年三月一二日及び同年九月一二日であり、本件証拠調べ終了の同五九年一〇月二五日に至るまで、審理期間一五年余、開廷数九八回を費しているが、本件は微細な計数を積み重ねる所得税法違反事件で被告人が公訴事実を全面的に争い、争点が多岐に亘り、証拠も相当多数を必要としたことからある程度の審理期間を要する事案であることは明らかであり、しかも本件審理期間が一五年余にも及んだ最大の理由は、同四四年五月一七日の第一回公判期日以降、弁護人側から必ずしも有用とは言い難い訴因等をめぐる求釈明の執拗な繰り返しがなされ、(ただし、検察官側の対応にも問題がなかつたとはいえない。)、被告人の被告事件に対する意見陳述(第四四回公判。同五二年一一月二二日)がなされるまで八年余りを費したことなどにあり、本件審理の遅延につき被告人、弁護人側にも相当の帰責事由が存するうえ、本件においては長期に亘る審理の中断がないまま実体審理の終了に至つており、被告人も長期間被告人の座にあつたという一般的な不利益はあつたもののそれ以外に防禦権の行使等につき特段の不利益を受けた形跡はないことなどの諸点を併せ考えると、いわゆる高田事件判決(最高裁判所昭和四五年(あ)第一七〇〇号、同四七年一二月二〇日大法廷判決、刑集二六巻一〇号六三一頁)にいうような審理の著しい遅延により憲法の定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態が生じているものとは到底認められないから、弁護人の右主張は採用できない。

三、公平な裁判所といえない旨の主張について

弁護人は、かつて本件裁判の審理を担当していた吉田治正裁判官らには忌避理由が存しており、本件裁判は憲法三七条一項にいう公平な裁判所による裁判とはいえないから公訴棄却されるべき旨主張するが、弁護人のいう吉田治正裁判官ら(安原清蔵裁判官、水島和男裁判官)についての忌避理由とは、吉田治正裁判長の期日指定、訴訟指揮に対する不服を主張するもので、かかる事由が忌避の理由とならないことは、弁護人の同裁判官らに対する忌避申立却下決定に対する即時抗告に対し、大阪高等裁判所が昭和五七年一〇月六日付の抗告棄却決定で詳細に説示しているとおりであり、弁護人の右主張は、前提を欠き採用できない。

四、公訴権濫用の主張について

弁護人は、本件に関する国税局の調査、検察官の捜査及び公訴提起は、被告人がいわゆる北朝鮮系の在日朝鮮人であり、かつ在日朝鮮人商工会の幹部であるため、被告人とその所属組織を差別、弾圧することを目的としてなされたもので、ことに本件捜査においては、右弾圧の目的を達成するため合理的な理由も必要性も全く存しないのに捜索、押収をし、被告人を不法逮捕するなど強制捜査権の濫用がなされており、本件は憲法三一条に違反する公訴権濫用の違法な公訴提起であるから、公訴棄却されるべき旨主張するが、関係証拠に照らしても、本件捜査及び公訴提起が、被告人が在日朝鮮人であることなどを理由に差別、弾圧する目的でなされたものとは到底認められないうえ、本件捜索、差押の執行及び被告人の逮捕は、いずれも合理的な嫌疑に基づき、裁判官により適法に発付された令状によつてなされたものであるから、弁護人の右主張は採用できない。

第二損益勘定科目の金額認定について

損益勘定科目についての検察官、弁護人の主張額及び当裁判所の認定額は、別表1の(1)、2の(1)、3の(1)の記載のとおりである(当裁判所の脱税額計算書は別表5のとおりである。)が、各争点について以下補足して説明する(なお、検察官及び弁護人の主張に差異があつても単に科目のみの移動で損益に影響しないものについては検察官の主張によつた。)。

一、昭和四〇年分売上について(40―<1>別表1の(2)参照)

(一) 伏見信用金庫東寺支店の中山政夫名義の当座預金口座への入金分について

弁護人は、右預金口座に九月一八日入金された五〇万円は、売上金ではなく商工信用組合からの借入金であり、同月一八日入金の一〇万円、同月二一日入金の三〇万円、同月二八日入金の一〇二万円も売上金ではなく借入金である旨主張し、被告人も右に沿う供述(同月二八日入金の一〇二万円については、水原講落札分の借入金三一三万二、〇〇〇円の一部であると供述)をするので検討するに、関係証拠によれば、右預金口座に右のとおりの各入金が存するうえ、被告人の従業員が記帳していた当座勘定帳(検第一号)によれば、その摘要欄には検察官が売上金と主張しているものの多くには「現金(売上金)」と記載されているのに対し、右入金分の摘要欄には単に「現金」とのみ記載されていること、同月一八日に商工信用組合九条支店から被告人五〇万円が手形貸付されていることなど弁護人の主張を一部裏付ける事実も認められるが、他方、右当座勘定には借入金の場合には「○○から借入」との記載があるが本件入金分にはそのような記載はないこと、同月一八日の五〇万円以外の借入先について被告人は具体的な供述をしておらず(水原講落札金については、関係証拠上同月ころに落札したものとは認められない。)、借入に関する客観的資料もないこと、本件以外にも右当座勘定帳摘要欄に単に「現金」とのみ記載があるにすぎない入金につき、検察官が売上金とし、弁護人も異議を述べていないものが相当あること(三月二五日入金の二〇万二、一〇〇円他多数あり。)、その他同帳の記帳状態、記帳内容、当該入金日前後の他の預金口座への入金状況のほか溝田洋子の検察官に対する供述調書等によつて窺われる売上状況などを併せ考えると、九月一八日入金の五〇万円については弁護人主張のとおり商工信用組合からの借入金を本件口座に入金した可能性が否定できないものの、それ以外の分については売上金が入金されたものと認めるのが相当である。

よつて、右五〇万円については弁護人の主張を認め、売上金額から除外することとする。

(二) 商工信用組合九条支店の金相祚名義日掛積立金(六六万円)について

右積立金につき、検察官は被告人の売上金を積立てたものである旨主張し、弁護人は金相祚自身の積立金である(右積立金解約後に被告人は同人から解約金を借り受けたものである。)旨主張し、被告人も弁護人の主張に沿う供述をするので検討するに、関係証拠によれば、本件積立金は金相祚名義でなされていたが、金相祚は通称今村良平といい、本件当時被告人が代表取締役をしていた中山観光株式会社の取締役の地位にあつた人物であること、本件積立金の満期日は昭和四一年一〇月七日であるが、同四二年一月五日に、満期日の異なる同支店の金奇泰(被告人の別名)名義の日掛積立金(満期日同四一年一二月一七日)と共に解約、現金化され、右両者の合計額九六〇万八二〇〇円のうち九五〇万円が同日、同支店の中山政夫名義手形貸付金の返済に充当されていること、金相祚名義の積立金は金奇泰名義の積立金と預金期間が重なつている部分(同四〇年一一月一日から同四一年一〇月七日までの間)について入金日が一致しており、両者には強い関連性が存することが窺われるものの、他方、金相祚は同四〇年一〇月ころから京都府木津町で自らパチンコ店を経営するようになつたが、本件積立金はその直後の同年一一月から開始されており、同人が自己経営のパチンコ店の売上金を日掛けで積み立てることも不可能なことではないとみられるうえ、本件査察を担当した国税査察官の田村辰雄証人(以下単に「証人田村」ともいう。)は、金相祚は本件査察当時、他の査察官に対し、「自分は同四〇年一〇月に木津の店を開店する際の二〇〇万以外は、被告人との間に貸借関係がない。」と明言していた旨供述するのに対し、証人洪仁卓は、金相祚から本件積立金は同人自身のもので、その解約金を被告人に貸与したと聞知した旨供述しており、右田村証言は伝聞供述であつて、その信用性判断については慎重な検討が必要とされるところ、検察官は、金相祚の質問てん末書等について証拠請求をせず、他に決め手となる資料も存しないことなどを併せ考えると、本件積立金が被告人のものと断定することができないから、この点に関する弁護人の主張を採用し、右部分を売上金充当分から除外することとする。

(三) 賄費充当分について

弁護人は、被告人の経営する各パチンコ店では売上金の中から従業員一人一日一〇〇円当たりの副食費が支払われていたから、年間合計額の二七九万九、八五七円を売上金額に加算すべき旨主張し、被告人も右に沿う供述をするので検討するに、関係証拠によれば、本件当時の従業員であつた原田洋子(旧姓溝田)及び品川喜代子も右同旨の証言をしており、検察官が賄費の算定基礎としている領収証綴(検第二九号、一四二号)中にも副食費関係のものはほとんどなく、右部分には副食費の支出が含まれていないとみられること、各店の稼働人員などを併せ考えると、弁護人主張のとおりの金額が売上金から賄費として支出されていた可能性があるから、この部分を売上金に加算することとする。

(四) 中山観光株式会社に対する貸付金充当分について

<1> 貸主が中山政夫となつている分について

中山観光株式会社(以下「中山観光」ともいう。)の債権債務記入帳(検第七号)に、同社が中山政夫から貸付を受けた旨記載されている分のうち、一四三万六九五〇円について、検察官は売上金から充当されたものであると主張し、弁護人は被告人が個人借入した金から充当されたものであると主張するので検討するに、被告人は右充当金員は他から個人借入したものであると供述するが、借入先、借入金額、借入条件等について何ら具体的な供述をしておらず、右借入を裏付ける客観的資料も全くないもので右供述はたやすく措信できず、被告人の各預金口座から一〇月八日貸付の一〇万円を除き(田村証言(七六回公判)及び大蔵事務官作成の調査てん末書(検第六三号)によれば、一〇月八日一〇万円の出金の事実が認められる。)本件貸付に対応する出金がないことや本件貸付前後の被告人の売上金の預金状況等を総合考慮すると、一〇月八日貸付の一〇万円は売上金から充当されなかつた可能性もあるが、それ以外の貸付金は売上金から充当されたものと認められる。

よつて、右一〇万円を売上金額から除外することとする。

<2> 貸主が康田健夫となつている分について

中山観光の前記債券債務記入帳に貸主名が康田健夫と記載されている分のうち三二〇万円について、検察官は売上金から充当されたものであると主張し、弁護人は右記入帳記載のとおり康田からの貸付金であると主張するので検討するに、被告人は弁護人主張に沿う供述をするものの、前記証人田村は、康田健夫自身国税査察官に対し、中山観光に金を貸した覚えはないと話していた旨供述しており(本証言は伝聞供述であるが、当事者から異議の申立はない。)、高額の貸付金であるにもかかわらず、貸付についての客観的資料も存しないことや本件貸付前後の売上金の預金状況等の諸事情を併せ考えると、被告人の右供述は措信できず、本件貸付金は、売上金から充当されたものと認めるのが相当である。

<3> 貸主が中村源太郎となつている分について

中山観光の前記債券債務記入帳に貸主名が中村源太郎と記載されている分中、六月一八日の一〇〇万円、一一月一八日の一〇〇万円、一一月三〇日の一〇〇万円の合計三〇〇万円について、検察官は売上金から充当されたものであると主張し、弁護人は右記載のとおり中村からの貸付金であると主張し、被告人も右に沿う供述をするので検討するに、右債券債務記入帳(検第七号)には右三〇〇万円以外に、六月三〇日に一〇〇万円、七月八日に五〇万円、一一月二日に一〇〇万円、一一月一〇日に一〇〇万円を中山観光が中村源太郎から借入れた旨の記載があるが、当座勘定帳(検第一号)などの関係証拠によれば、そのうち七月八日の五〇万円、一一月二日の一〇〇万円、一一月一〇日の一〇〇万円はいずれも伏見信用金庫東寺支店の中山政夫名義の当座預金口座から入金されたものであることが認められ、この部分については被告人の個人資金が中村源太郎名義で中山観光に貸付けられていることが明らかであり、本件三〇〇万円も被告人の売上金が中村源太郎名義で貸付けられた可能性も存するが、他方、中村源太郎こと権外東は当公判廷で本件当時合計三〇〇万円位を中山観光に貸付けた旨証言しており、田村証言など関係証拠によれば、本件査察当時、査察官は中村源太郎の住所に書留郵便を送り本件貸付の有無を確認しようとしたが、送達ができなかつたため、同人居住の事実がないと断定して調査を打ち切つているが、この書留郵便の宛先住所の記載が誤記であつた可能性が認められ、本件調査に不十分な点がみられることその他の諸事情を併せ考えると、本件三〇〇万円については中村源太郎が貸付けたとの疑いも残り証明十分とは言い難く、この部分については弁護人の主張どおり、売上金から除くこととする。

(五) 給料賞与充当分について

検察官は給料賞与(以下単に給与ともいう。)支払総額二二八一万六四三五円からその資金出所が確認された金額七九二万二七六五円を差し引いた部分一四八九万三六七〇円は、売上金から直接支払われたものであると主張し、弁護人は給与支払総額は二三四九万三〇四五円であり、検察官が資金出所確認金額とするもの以外も借入金や頼母子講落札金によつて支払われており、売上金から給与を支払つた事実はない旨主張するので、以下検討する。

<1> 給与支払総額について

後期二の(一)に詳述する理由により、当裁判所は二二六四万一七〇〇円と認定する。

<2> 給与の支払資金について

弁護人は、検察官が給与支払資金出所確認金額として主張する七九二万二七六五円に加えて、簿外借入で一月分一五万、二月分一六〇万円、三月分四五万円、七月分九五万円、八月分一七〇万円の、中央信用金庫からの借入金二〇〇〇万円の一部で四月分一七〇万円の、水原頼母子講落札金で六月分一八〇万円の、伏見信用金庫東寺支店からの借入金二五〇万円の一部で九月分一六〇万円の、京都信用金庫七条支店の普通預金から一一月分一八〇万円の、福徳相互銀行京都支店からの借入金で一二月分及び賞与二八四万二五七〇円の各支払に充当しており、売上金を給与の支払に充てた事実はない旨主張し、被告人も右に沿う供述をするので検討するに、当座勘定帳(検第一号)、賃金台帳六綴(検第九ないし一四号)、大蔵事務官作成の調査てん末書(検第七二号)、田村証言及び被告人の供述によれば、被告人は毎月月末に従業員に対し給料を支払つていたこと、四月三〇日に中央信用金庫からの借入金二〇〇〇万円の一部二九一万六八〇〇円、九月三〇日に伏見信用金庫東寺支店からの借入金二五〇万円、一一月一六日京都信用金庫七条支店の中山政夫名義の普通預金から一〇〇万円、一二月二八日福徳相互銀行京都支店からの借入金三〇〇万円のうち二八四万二五七〇円の各出金があり、検察官は右各出金について支出先が不明であるとして不明出金として処理しているが、右のうち四月三〇日、九月三〇日、一二月二八日の各出金についてはいずれも月末の出金であり、被告人が給料及び賞与の支払にあてた可能性も否定できず、また、調査てん末書(検第七二号)によれば、被告人は一六回満期で七月二八日が最終回になつている水原頼母子講に毎月一五万円から一九万円程度の掛金を支出していたが、六月中には掛金の支出がなく六月中に被告人が落札した可能性があり、さすれば一回あたりの掛金額に照らし総額三〇〇万円程度の落札金を取得したはずであるのに、うち五〇万円の出金状況しか判明しておらず、その余の金員が給与の支払に充当された可能性が存するうえ、各月の給料の支払状況、検察官の認める支払資金出所確認額なども併せ考えると、右部分中弁護人主張額(合計七九四万二五七〇円)については給与の支払に充当されたものと認めるのが相当である。しかし、一一月一六日の出金については月なかばの出金であり、給料支払との関連性が認められず、また右以外の簿外借入金の主張については、借入日、借入先、借入条件などについて具体的な主張がないうえ、借入についての裏付けとなる客観的資料がないこと、日銭が入る被告人の事業の性格等をも併せ考えると、右弁護人の主張は採用できず、これらの部分については売上金から充当されたものと認めるのが相当である。

<3> 当裁判所の認定する売上金による給与充当額

以上のとおり、当裁判所は、給与支払総額を二二六四万一七〇〇円、売上金以外による支払充当額を一五八六万五三三五円(検察官認定額七九二万二七六五円プラス弁護人加算主張認定額七九四万二五七〇円)と認め、その差額六七七万六三六五円が売上金から給与に充当されたものと認める。

(六) 家計費充当分について

売上金から家計費に充当されていた金額について、検察官は月一〇万円(年間一二〇万円)、弁護人は月五万円(年間六〇万円)であると各主張するが、田村証言、西村栄美子の証言等によれば、検察官主張のとおり認定するのが相当である。

二、昭和四〇年分必要経費について

(一) 給料賞与について(40-<5>)

<1> 賞与について

検察官は賃金台帳(検第九ないし一四号)に賞与支払の記載がある九条店のみ賞与支払を認め、他店についてはこれを認めないのに対し、弁護人は他店についても夏、冬に各月給額の半額(年間で一ヶ月分)相当の賞与が支払われていた旨主張し、被告人もこれに沿う供述をするので検討するに、被告人の当座勘定帳(検第一号)には八月一四日に一〇〇万円が夏季手当分として支出された旨の記載があるが、九条店の賃金台帳(検第一一号)によれば、同店従業員の夏季賞与支給総額は三〇万五四〇〇円にすぎず、右一〇〇万円との差額は他店の従業員の賞与に充当された可能性が高いうえ、関係証拠によれば、各店の賃金台帳には一部欠落の存することが認められること、被告人経営のパチンコ店の当時の幹部従業員であつた証人新川こと李正人及び同北沢こと李鉱在は、各店において夏、冬年二回各従業員の月給の半額程度の賞与が支払われていた旨当公判廷で供述していることなどの諸点を併せ考えると、弁護人主張のとおり、九条店以外の各店舗従業員に対しても、年間各従業員の一月分の給与額に相当する金額の賞与が支払われていたものと認めるのが相当である。

<2> 九条店の給与支給額について

検察官は九二六万九七六〇円、弁護人は九三〇万五〇五〇円と各主張するが、賃金台帳(検第一一号)を集計すると、弁護人主張額のとおり認められる(検察官の主張額は違算である。)。

<3> 今出川店の給与支給額について

検察官は、同店の賃金台帳(検第一二号)を基礎にしつつ、山田宣彦ら七名については一月分の台帳が欠落しているので同人らの二月分の支給額をそのまま一か月分加算し、高橋章三については三月ないし五月分の台帳が欠落しているので同人の六月分の支給額の三倍を加算して補正し、総額三一二万一一二〇円であると主張し、弁護人は同店は最低一三人の従業員が必要であつたとし、右台帳でこれを満している六月ないし一二月の月間平均支給額三〇万六一〇〇円を一月ないし五月の支給分にあてはめ、更に賞与も加え、総額三九七万三四〇〇円であると主張するので検討するに、関係証拠によるも年間を通じ同店に一三名の従業員が稼動していたものとは認められないから、弁護人の右推計は妥当なものとはいえず、他方、検察官の推計方法は同一人の近接月の支給額をあてはめて推計したもので、合理性のあるものであるから、給与支給額については検察官の主張を採用し、前記<1>のとおり賞与を加算し、総額三三八万一二一三円と認定する。

<4> 府庁前店の給与支給額について

検察官は同店の賃金台帳(検第九号)を集計し、三一四万二〇七〇円と主張し、弁護人は同店は最低一四、五人の従業員が必要であつたとし、右台帳でこれを満している六月ないし一二月の月間平均支給額二八万五四〇〇円を一月ないし五月の支給にあてはめ、更に賞与を加算し、総額三七一万五〇〇〇円と主張するので検討するに、関係証拠によるも年間を通じ同店に一四、五名の従業員が実働していたものとは認められず、弁護人の右主張は採用できないが、前記<1>のとおり賞与についてはこれを認め、総額三四〇万三九〇九円と認定する。

<5> 長岡店の給与支給額について

検察官は、同店の賃金台帳(検第一三号)により、六月ないし一二月分については同台帳の記載額を合計し、一月ないし五月分については六月以降の分から推計計算し、総額三四五万七三七〇円と主張し、弁護人は六月ないし一二月分について同台帳の記載額を合計したうえ賞与を加算し、総額二四三万五一九〇円であると主張するので検討するに、関係証拠によれば、同店は、被告人が昭和三八年ころ、土地、建物を購入しパチンコ店を営業しようとしたが、知人の河本浩太郎に頼まれ同人に同店を貸与し、同人が同店でパチンコ営業していたが、同四〇年五月ころ同人が死亡したため、同年六月から被告人が同店を経営するようになつたもので、同年五月以前は被告人が同店従業員に給与を支払つた事実はないことが認められ、一月ないし五月分についても給与支給を計上する検察官の主張は失当であり、右台帳に記載のある六月ないし一二月分の給料を集計し、賞与を加算し総額二四四万八四二三円と認めるのが相当である(弁護人の主張との差異は違算のためである。)。

<6> 石山店の給与支給額について

検察官は、同店の賃金台帳(検第一四号)を集計すると一九二万六一一五円となるが、同台帳には欠落があり、同店には常時一一名が就労していたとして、同規模の他店の数値を参考にして一九〇万円を加算し、総額三八二万六一一五円であると主張し、弁護人は、右台帳には欠落があり、同店には最低一一名の従業員が必要であつたとし、右台帳でこれを満たしている一〇月ないし一二月の月間平均支給額を一月ないし九月分にもあてはめ、これに賞与を加算し、総額三〇六万四四〇五円であると主張するので検討するに、同台帳には一月分は四名、二月分は五名についてしか支給の記載がないなど台帳に欠落があるところ、関係証拠によれば、同店には最低一一名程度の従業員が稼働していたと認められるから、支給額について推計の必要があるが、検察官の推計方式は「他店の数値を参考に」というものの、それ以上具体的な主張、立証はなされておらず合理的なものとは断じえないのに対し、弁護人の主張は同店の実額支払分を基礎に推計した合理的なものであるから、弁護人の推計方式で計算したうえ賞与を加算し、総額三一〇万三一〇五円と認定する(弁護人の主張との差異は違算のためである。)。

<7> 玉山に対する退職金について

弁護人は、被告人は玉山光一に退職金一〇〇万円を支払つた旨主張するので検討するに、被告人は玉山は自分のパチンコ店に一〇年以上勤務し、当時九条店の店長をしていたもので、退職時、一〇〇万円を支払つた旨供述しており、九条店の賃金台帳(検第一一号)によれば、玉山光一に七月まで毎月六万円の給料が支払われていたが、八月以降は支払の事実がないことが認められ、同人は七月限りで退職したものと推認されるうえ、同人の給料は他の従業員に比し相当高額であり幹部従業員であつたとみられることなど併せ考えると、同人に一〇〇万円程度の退職金が支払われた可能性も否定できないので、弁護人の主張どおり退職金一〇〇万円の支払を認めることとする。

(二) 公租公課について(40-<6>)

弁護人は、八月二〇日支出の五万一一六〇円は事業用に購入した京都市南区東九条の土地の取得税であるから必要経費に計上すべきであると主張するので検討するに、関係証拠によれば、右支出の存在が認められるうえ、被告人も右同旨の供述をしており、同供述を不合理と断ずる理由もないので、右支出を公租公課に計上することとする。

(三) 広告宣伝費について(40-<9>)

弁護人は、朝鮮中央芸術団に対する四月二七日三〇万円、五月二七日三〇万円、六月二八日四〇万円の各支出及び体育会に対する一〇月五日一二万円の支出を広告宣伝費として計上すべきでると主張するので検討するに、当座勘定帳(検第一号)、調査てん末書(検第六三号)などの関係証拠によれば、被告人の当座預金口座から右のとおりの出金が存することは認められるところ、被告人は、朝鮮中央芸術団に対する支出は同団発行の月刊新聞への広告代であり、体育会に対する支出は京都朝鮮中高級学校の運動会プログラムの広告代である旨供述するが、広告掲載についての客観的資料もなく、当時の支出金額としては高額であることなどに照らしても広告掲載代金というよりもむしろ寄付金的なものと考えられるうえ、証人洪仁卓の証言等に徴しても、被告人の営業との間に関連性は認め難く、右支出は所得税法三七条にいう必要経費には該当しないものというべきである。よつて、弁護人の主張は採用できない。

(四) 交際費について(40-<10>)

弁護人は、大丸に対する支出合計三八万九、八〇〇円(二月八日一万〇、六〇〇円、三月八日三万七、八〇〇円、八月七日七万九、三三〇円、一〇月七日四万七、四六〇円、一一月八日八万九、七二〇円、一二月七日一万四、五〇〇円、昭和四一年一月五日(同四〇年一二月三一日振出しの小切手決済金)一一万〇、三九〇円)及び一一月二日支出の東京への送金一一万八、五〇〇円はいずれも銀行支店長や個人借入れ先等に対する贈答品の購入代金であり、河本信明に対する七月二日一〇万円、一二月一六日五万円の各支出は同人に世話になつたことへの礼金であり、いずれも交際費に計上すべきであると主張する。

そこで検討するに、関係証拠によれば、弁護人の右主張どおりの支出が存在することは認められる。しかし、請求書、領収証綴(検第一四八号)によれば、右一〇月七日の大丸に対する支出(小切手振出日一〇月五日)は、男児スポーツシャツ、ズボン下、女児ワンピース等の購入代金であることが認められ、右二月八日の支出(小切手振出日二月五日)についても当座勘定帳(検第一号)の摘要欄によれば、婦人セーター代と認められ、その他の大丸に対する支出についても直接支出内容に関する客観的資料はないものの、右支出内容や当時の被告人の家族状況などを併せ考えると、被告人の家事関係の費用と認められ、弁護人主張の如く銀行支店長等への贈答品購入代金とは認め難い。

また、東京への送金について、被告人は東京のアメ横のアメリカ製品専門店でボールペンを購入し、金融機関関係者等に贈答した際の代金である旨供述するが、その裏付けとなる客観的資料もなく、仮に被告人の供述どおりとしても事業との直接の関連性は認められないものである。

更に、河本信明に対する支出について、被告人は、河本は自分が長岡店を経営する以前、同店の店長であつた人物で、昭和四〇年六月に自分が同店を経営するようになつた後も一月半ほど同店にいてもらつたのでその礼として支払つたものであると供述するが、これを裏付ける客観的資料はなく、また仮に被告人の供述のとおりとすれば、同人に対しては給料が支給されるはずであるのに同店の賃金台帳(検第一三号)にその旨の記載はなく、被告人の供述は信用することができない。

以上によれば、弁護人の主張はいずれも採用できない。

(五) 修繕費について(40-<11>)

弁護人は、大元建設に対する支出合計六三八万円(八月七日三万円、一〇月一九日二〇万円、一一月六日二〇万円、同月一三日四〇万円、同月一五日一〇万円、同月二九日六〇万円、一二月一三日六〇万円、同月一五日五〇万円、昭和四一年一月七日(同四〇年一一月五日振出しの小切手決済金)一六万円(以下の分は、同四〇年中に手形あるいは小切手が振出され、四一年になつて決済されたものであるが、決済日のみで特定する)、同四一年一月一一日七〇万円、同月一七日五〇万円、同年二月一二日七〇万円、同月一六日一〇万円、同月二六日七万円、同年三月四日七万円、同月七日六五万円、同月二二日一〇万円、同年四月一三日七〇万円)、池田電機に対する支出合計一七〇万円(同四〇年八月七日一〇万円、一〇月二八日四〇万円、一一月五日二〇万円、同月一七日二〇万円、一二月二三日二〇万円、同四一年一月一〇日二〇万円、三月一日二〇万円、同月二六日二〇万円)、実宏電装への支出合計九八万円(同四〇年九月八日一〇万円、一〇月一日一三万円、同四一年一月二二日二五万円、二月二三日二五万円、三月二二日二五万円)、元木工務店に対する同四〇年一〇月一四日の支出三〇万円及び電建設備工業に対する一二月一〇日の支出三万八、〇〇〇円をいずれも修繕費に計上すべきであると主張し、検察官は右支出はいずれも資本的支出であり修繕費とはならない旨主張する。そこで、以下この点について検討する。

関係証言によれば、被告人の当座預金口座から弁護人主張のとおりの出金がなされているが、被告人及び証人洪仁卓は、被告人経営の各パチンコ店では客寄せのため店舗を改造したりパチンコ機を取り替えたりして、いわゆる新装開店を各店につき年一、二回行なつていたが、当時パチンコ機を取り替える場合、これを支えるいわゆるシマの部分の工事も必要で、これを行なつていたが、次回の新装開店の際はこれを取り壊すもので、同工事は建物等の価値を増加させるものでもその使用期間を延長させるものでもない旨供述し、当時の幹部従業員であつた証人李正人、同李鉱在も、新装開店は年数回行なつていた(両証人の供述)が、新装開店の方法も、程度の差が様々であつて、店内の塗装を変える程度のものや、パチンコ機を取り替えてもシマ工事をしない場合もあり、シマ工事を伴うものも各店につき二、三年に一度位はやつていた(李鉱在供述)旨の供述をしており、請求書領収証綴(検第一四八号)の中には、大元建設の、パラダイス九条本店宛の九月切日付請求書(「合計金三五〇万九、四五〇円」の記載がある。)、同月二八日付請求書(「本店請負金、追加工事、二階造作、立具工事、便所工事」等の記載がある。)、パラダイス出町(河原町)支店宛の九月切日付請求書(「合計金八〇万〇、九〇〇円」の記載がある。)、同月二八日付請求書(「請負金、追加工事、鉄工工事」等の記載がある。)、パラダイス中山政夫宛の一〇月五日付領収証(「金三三〇万円、但本店出町工事代金として」の記載がある。)、中山政夫宛の一〇月二五日付領収証(「金七〇万円、但出町本店工事代金として」の記載がある。)、池田電機の、今出川パラダイス宛の九月一八日付の見積書、同月切日付の請求書(いずれも「合計金額七九万一、五八二円、新装開店に伴う電気設備改良工事」等の記載がある。)、九条パラダイス宛の一〇月一八日付請求書二通(「合計金額一八万四、三六四円、リフト新設工事」、「合計金額六四万八、一四五円、新装開店に伴う電機設備工事」等の記載がある。)、長岡ニュージャパン宛の九月切日付請求書(「合計金額二、三〇〇円、マイクロフォン修理」等の記載がある。)、パラダイス会館宛の一〇月二八日付領収証(金額一四〇万円)があり、経費明細帳(検第二〇号)、個人手形受払帳(検第四三号)などの関係証拠に照らすと、右各請求書、領収証記載のものは前記被告人の当座預金からの出金の一部と一致すること、パチンコ機取替計算書(検第八〇号)によれば各店舗は年一、二回パチンコ機の取替えをしていたことが認められ、以上の諸事情を併せ考えると、被告人の各営業店舗では年一回程度はパチンコ機の取替えを伴う新装開店を行なつており、その際にはパチンコ機を支えるシマ工事も行なうこともあり、前記大元建設、池田電機などがその工事を担当し、被告人がその代金を支払つていたものと認められる。そして、前記領収証等によれば、弁護人主張の支出の一部がこれらの工事代金に充てられたものと認められるが、その余については請求書、領収証等の客観的資料がなく(ちなみに、前記請求書領収証綴(検第一四八号)は九月分、一〇月分についてしか綴られていない)、支出内容自体は不明であるが、被告人ら供述のとおり新装開店のためのシマ工事等に充てられた可能性も否定できず、なお九条店のリフト新設工事代金一八万四、三六四円は、支出内容自体から新装開店とは無関係のものと言わざるをえないが、右以外のものはいずれも新装開店のための工事関係の支出と認めることとする。

そこで、右支出が所得税法上、修繕費として必要経費となるか否かについて検討するに、証人田村は、本件当時修繕費になるか否かにつき支出額を基準にし、一〇万円未満のものは修繕費と認め、一〇万円以上のものは資本的支出とみて修繕費に計上しない旨供述するが、所得税法は、固定資産について修理、改良等のために支出した費用にかかる資本的支出と修繕費の区分については、その支出効果の実質に基づき判定することを原則とし、同法四九条は減価償却資産につき償却費として必要経費に算入すべき方法を定め、同法施行令一八一条は、業務の用に供する固定資産で、当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額あるいは当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額あるいは当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額については必要経費に算入しない(すなわち資本的支出と認める)旨規定しており、法規上、右田村証言の如く単なる支出額は基準とはなつていない。そして、本件新装開店のための工事代金は、同法施行令一八一条にいう、資産の使用期間を延長させる部分に対応する金額あるいは資産の価額を増加させる部分に対応する金額であると断定することができず、これら(前記リフト新設工事代金を除く)が資本的支出であるとの検察官の主張は採用できないから、弁護人主張のとおり修繕費に計上すべきものと認める。

(六) 賄費について(40-<15>)

前記一の(三)記載のとおり弁護人主張の副食費二九七万九、八五八円を認め、総額四五四万五、三五二円と認定する。

(七) 福利厚生費について(40-<16>)

弁護人は、ワシントンに対する一月二五日の八、〇〇〇円、西垣ワイシャツ店に対する二月一三日の一万円、安田テーラーに対する五月一一日四万八、〇〇〇円、一〇月六日五万四、〇〇〇円、綿宗フトン店に対する五月一三日二五万三、〇〇〇円、昭和四一年一月五日(同四〇年一二月三一日振出しの小切手決済金)七万七、〇〇〇円、片木シャツに対する八月九日一万四、二〇〇円の各支出を福利厚生費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、被告人の当該預金口座から右のとおりの出金が存することが認められ、右支出内容に関する客観的資料は存しないが、被告人は、ワシントンへの支出は各店舗内で男子従業員が使用する運動靴の購入代金であり、安田テーラー、西垣ワイシャツ店、片木シャツへの支出は男女従業員の制服代であり、綿宗フトン店に対する支出は住み込み従業員の寝具関係の代金である旨供述しており、関係証拠に照らし右供述は必ずしも不合理とは断じ難く、右支出を福利厚生費に計上することとする。

(八) 会費について(40-<18>)

弁護人は、固城親睦会に対する二月一二日一万円、七月一九日二万円、商工連合会に対する六月二一日五〇万円、朝鮮総連本部に対する一一月一五日の三〇万円、京都保護育成会に対する昭和四一年一月一八日ないし七月一八日合計七〇万円(いずれも同四〇年七月五日振出しの手形の決済金)、京都朝鮮中高級学校に対する同四一年四月六日二〇万円(同四〇年一一月一五日振り出しの手形の決済金)は、いずれも会費に計上すべきであると主張し、関係証拠によれば、右支出の存在が認められるので、以下各別に必要経費に該るか否かについて検討する。

<1> 固城親睦会に対する支出について

被告人は、「固城親睦会は自分の出身地である慶尚南道固城郡出身者で作つている親睦会であり、同会会員から従業員の世話や資金繰りの斡旋を受けたこともある。二月一二日の一万円は同会の入会金で、七月一九日の二万円は同会の夏期慰安会の特別会費である。」旨供述し、証人田村は固城親睦会に対する出金は頼母子講の掛金であり、被告人が別途配当金を受けていることが当時の税務署の記録に残つていた旨供述し、その他これに関する客観的資料は存しないものであるが、仮に被告人供述のとおりとしても、同会はあくまでも個人的な親睦団体であり、被告人の事業と直接関連するものではないから、必要経費とは認められない。

<2> 商工連合会、朝鮮総連本部に対する支出について

被告人はいずれも両団体に対する会費である旨供述し、朝鮮人商工会のしおり(弁第一号)、在日本朝鮮人京都府商工会規約(弁第二号)その他の関係証拠によれば、在日本朝鮮人商工連合会の下部組織に京都府商工会が存し、更にその下部に地域商工会が置かれており、被告人は昭和三八年ころから京都府商工会の副会長をしており、朝鮮総連にも加入していたこと、会員は所定の分担金と会費を納入すべき義務があるとは認められるが、被告人は、会費の額は規約上定まつたものではなく、各商工人の立場に応じて支出していた旨供述しており、各下部機関(朝鮮総連九条支部、京都府商工会)への支出は検察官も会費として認めているが、本件支出はいずれも本部に対するもので、金額も五〇万円、三〇万円という高額なものであることなどの諸点を併せ考えると、本件支出は会費というより被告人の社会的体面を保持するための寄付金的性格を有するものと認められるから、必要経費には該当しないものと解する。

<3> 京都保護育成会、朝鮮中高級学校に対する支出について

被告人及び証人洪仁卓は、京都保護育成会に対する支出は、少年院などに入つた朝鮮人子弟の矯正のために利用されるものであり、朝鮮中高級学校に対する支出は、同校に対しては日本国や地方公共団体からの補助がないため、一種の義務的なものである旨供述するが、そうであるとしても、被告人の事業と直接の関連はないから、必要経費には該らない。

(九) 支払利息について(40-<21>)

弁護人は、被告人は宋彦澤他多数の者(個人)から金を借り利息を支払つていたので、合計九六三万一四六二円を支払利息として必要経費に計上すべき旨主張するので検討するに、被告人、証人洪仁卓及び当時の幹部従業員であつた証人金孝は、被告人は宋彦澤ほか数名の者からそれぞれ数百万円ないし一〇〇〇万円程度の金員を無担保で借り、被告人あるいは中山観光振出しの約束手形を渡し月一分ないし四分の利息を払つていた旨供述し、証人金鐘声、同宋彦澤は、いずれも昭和三九年から四〇年ころにかけて被告人に対し五〇〇万円から一、〇〇〇万円程度の金員を月利二・五分から三分位で貸し、被告人から約束手形を受け取つた旨供述しているが、右貸付は、相当高額であるのに無担保であり、約束手形などの客観的資料もなく、被告人の個人の手形受払帳(検第四三号)にも記載がなされておらず、利息支払の点についても右関係人はいずれも領収証を交付していなかつた旨供述するなど不合理な点が多く、利息支払の事実自体疑わしいうえ、仮に主張のような個人借入がなされていたとしても、弁護人の冒頭陳述補充書(その一)一五八丁以下の貸借対照表によつても、事業と直接関連しないとみられる資産の主なものだけでも、別表4記載のとおりの増加がみられ、これらの原資として借入金が生じたものとみられるから、その支払利息も事業上の必要経費にはあたらないものである。よつて、弁護人の主張は採用できない。

(一〇) 減価償却費について(40-<22>)

<1> 建物について

減価償却費算定の基礎となる取得価格について、九条店は検察官一〇〇〇万円、弁護人一二五〇万円、府庁前店は検察官五五〇万円、弁護人五〇六万六五〇〇円、今出川店は検察官七〇〇万円、弁護人五五〇万円、石山店は検察官四一五万円、弁護人六四〇万円、長岡店は検察官二五〇万円、弁護人五〇〇万円と主張額が異なるので検討するに、減価償却計算書(検第七七号)には検察官主張金額どおりの記載があるが、その根拠が不明確なうえ、検察官の昭和五六年七月一〇日付立証趣旨補充書に「直接取得価額のわかるものがないので、税務署の課税資料を参考にして金額を確定した」旨記載されているが、この課税資料がいかなるものか不明であり、他方、被告人は弁護人主張額のとおりの供述をするものの、これを裏付ける客観的資料は存せず、その供述も直ちに措信しうるものではないが他に確たる証拠もないので、弁護人主張のとおり認定することとした。

<2> 建物改造、電気設備、ネオンサインについて

検察官は昭和四〇年中に取得した部分についていずれも減価償却費を計上するが、前記(五)で詳述したようにリフト新設工事分以外はすべて修繕費と認定したので、リフト新設部分以外については減価償却の対象資産とはならない。なお、右リフト分については別表1-(三)のとおり計上する。

<3> 営業権について

昭和四〇年六月に被告人が河本浩太郎の遺族に支払つた五〇〇万円について、検察官は長岡店の営業権取得とみて、減価償却費を計上し、弁護人は営業権の取得ではなく、河本浩太郎の遺族に対する立退料であるから、減価償却の対象とはならない旨主張するが、後記(十三)のとおり、右五〇〇万円は立退料であると認定するからこの部分は減価償却の対象とはならない。

(一一) 旅費交通費について(40-<24>)

弁護人は、一月二一日二五万三〇〇〇円、七月一九日一九万五〇〇〇円、同月二二日一〇万九七〇〇円、昭和四一年一月五日一二万九八七〇円(同四〇年一二月三一日振出しの小切手の決済金)の各支出を旅費、交通費に計上すべきである旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、右の各支出の存在は認められるが、右支出について被告人はアメリカの市場を調査する意味も兼ねて日本赤十字主催のアメリカ赤十字視察旅行に参加した際の旅行費用であると供述しており、支出内容が被告人供述のとおりとしても被告人の事業と直接関連するものではないから、必要経費に該らない。

(一二) 事業専従者控除について(40-<32>)

弁護人は被告人の妻について事業専従者控除を認めるべきであると主張するが、所得税確定申告書謄本(検第一三四号)には、被告人の妻は控除対象配偶者として記載されてはいるが、事業専従者欄には記載されていないから、所得税法五七条三項、五項により、事業専従者控除の対象とはならない。弁護人の主張は失当である。

(一三) 立退料について(40-<35>)

被告人が河本浩太郎の遺族に支払つた五〇〇万円について、検察官は長岡店の営業権の買取り代金であり、資本的支出であるから必要経費に該らない旨主張し、弁護人は同人の遺族に対する立退料であるから必要経費に計上すべき旨主張するので、以下この点について検討する。

調査てん末書(検第六三号)、請求書、領収証綴(検第一四八号)などの関係証拠によれば、被告人が六月二六日伏見信用金庫東寺支店から五〇〇万円を借り入れ、同日、河本浩太郎の遺族とみられる河俊弘に交付したことが認められる。この支出について、被告人及び証人洪仁卓は、被告人が昭和三八年ころ、長岡店の土地建物を購入し、パチンコ店用に建物を改造して営業しようとしたところ、被告人の同郷の友人である河本浩太郎がパチンコ店を経営したいと云うので、同人に、長岡店の店舗をパチンコ営業に必要な什器、備品を含めて貸与し、賃料として月九〇万円(一日三万円)を受領していたところ、同四〇年五月に同人が死亡したため、被告人自身が同店の営業を行なおうとしたが、河本の遺族が同店二階に居住したまま立退こうとしないので、やむなく立退料として五〇〇万円を遺族に支払い、パチンコ営業をするに至つたものである旨供述するが、証人田村は、被告人は河本の経営していたパチンコ事業の事業体及びそれに伴う什器一切をそのまま承継し、その対価として五〇〇万円を払つたもので、営業権の買取りとみるべきである旨供述する。そこで、いずれの供述を信用すべきであるかであるが、不動産登記簿謄本(弁第一七ないし一九号)によれば、長岡店の土地、建物は、被告人が昭和三八年に購入し登記もしていることが明らかであり、他の関係証拠によれば、同建物を被告人が河本に貸与し、その家族も建物に居住していたものと認められるから、河本死亡後被告人が河本の遺族に立退いてもらう為に金を払うことはあり得ることであり、本件五〇〇万円の中にその趣旨が含まれていた可能性は否定できない。しかし、五〇〇万円という金額は立退料としては高額なものであり、その他の諸事情を併せ考えると、本件五〇〇万円の中には、什器、備品の買取り代金等の性格も混在していたことも十分考えられる。しかしながら、その割合を証拠上確定できないから、疑わしきは被告人の利益にの法理により、全額立退料と認定することとする。

三、昭和四一年分売上について(41-<1>別表2-(2)参照)

(一) 伏見信用金庫東寺支店の中山政夫名義の当座預金口座への入金分について

弁護人は、三月二日に同口座に入金された五六万〇八八〇円は売上金ではなく個人借入金である旨主張するが(弁論要旨一五一頁)、昭和四〇年分と同様の理由により弁護人の主張は採用できない(一の(一)参照)。

(二) 京都信用金庫七条支店の中山政夫名義の当座預金口座への入金分について

弁護人は、昭和四二年一月四日に同口座に入金された二一万三七一八円は同四一年一二月三一日の売上金であるから四一年分の売上に計上すべきであると主張するので検討するに、確認書(検第一三三号)によれば、被告人の右口座に同四二年一月四日右金額が入金されていること、調査てん末書(検第六六号)には「一二月三一日二一万三七一八円売上」、「一月四日入金」の記載があることがそれぞれ認められるから、右入金は同四一年分の売上金が入金されたものと認められる。

(三) 伏見信用金庫東寺支店の笠岡良夫名義の普通預金口座への入金分について

弁護人は、同口座に対する六月二二日の三〇万円の入金は売上金ではなく不明入金(借入金)であると主張するので検討するに、関係証拠によれば右入金の存在が認められるうえ、笠岡良夫名義の右預金届出印が被告人の事務所金庫内に保管されており、伏見信用金庫東寺支店で領置した同支店事務員が記帳していた普通預金他店券入金控(検第二五号)には、笠岡良夫名義の普通預金(口座番号九二二三)は中山政夫のものである旨の記載がなされていることが認められ、右笠岡口座が被告人の仮名預金口座であことは明らかで、弁護人主張の如く被告人が借入金を右口座に入金するというのは不自然であり、本件入金前後の売上金の入金状況等も併せ考えると、本件三〇万円は売上金が入金されたものと認められる。

(四) 商工信用組合九条支店の金相 名義日掛積立金について昭和四〇年分と同様の理由により、売上金から除外する(一の(二)参照)。

(五) 中山観光株式会社に対する中山政夫名義の貸付金充当分について

昭和四〇年分と同様の理由により、売上金から充当されたものと認める(一の(四)参照)。

(六) 給与充当分について

<1> 給与支払総額について

後期四の(一)に詳述するとおり、二五七三万八〇九二円と認定する。

<2> 給与の支払い資金について

弁護人は、検察官が給与支払資金出所確認金額として認める一三〇四万五四八〇円に加えて、簿外借入金で一月分五〇万円、五月分二〇〇万円、六月分二〇〇万円、九月分一〇〇万円、一二月分及び賞与分三〇〇万円の、水原頼母子講の落札金二四二万五〇〇〇円の一部で四月分五〇万円の、商工信用組合からの借入金五〇〇万円の一部で八月分一三〇万円の、松葉商店からのリベートで九月分九六万一一四五円の、中山観光からの返済金二三〇万円の一部で一一月分一九〇万円の各支払に充当しており、売上金を給与の支払に充ててはいない旨主張し、被告人も右に沿う供述をするので検討するに、調査てん末書(検第七二号)には水原講の三月と五月の間に「落札二五八万円」の記載がり、調査てん末書(検第九五号)の借入金項目の月日欄、摘要欄及び貸方欄に「八月三一日、商工/九五〇〇万円」、同貸付金項目の貸方に「一二月一日中山観光五〇〇万円のうち二三〇万円」の記載があり、リベート計算メモ(検第一七号)には「昭和四一年九月三〇日、九五万一一四五円」の記載があり、関係証拠上認められる各月給料の支払時期、支払状況なども併せ考えると、四月分中五〇万円、八月分中一三〇万円、九月分中九六万一一四五円、一月分中一九〇万円については弁護人主張の如く売上金以外のもので充当された可能性も否定できない。しかし、右以外の簿外借入金で充当したとの主張については、借入日、借入先、借入条件などについて具体的な主張がないうえ、借入についての裏付けとなる客観的資料がないこと、日銭が入る被告人の事業の性格等を併せ考えると、弁護人の主張は採用できず、この部分については売上金から充当されたものと認められる。

<3> 当裁判所の認定する売上金による給与充当額

以上のとおり、当裁判所は、給与支払総額を二五七三万八〇九二円、売上金以外による支払充当額を一七七〇万六六二五円(検察官主張額一三〇四万五四八〇円プラス弁護人加算主張認定額中四六六万一一四五円)と認め、その差額八〇三万一四六七円が売上金から給与に充当されたものと認める。

(七) 家計費充当分について

昭和四〇年分同様、年間一二〇万円と認定する(一の(六)参照)。

(八) 賄費充当分について

昭和四〇年分同様、従業員一人一日一〇〇円当りの副食費が売上金から支払われていたものと認め、合計三〇七万五、四二九円を加算する。

四、昭和四一年分必要経費について

(一) 給料賞与について(41-<5>)

昭和四一年分の給与支給額について、雑資料(検第一五号)には五月分から一一月分までの七ヶ月分の記載しか存しないので、検察官はこの額に12/7を乗じて総額二三六三万七〇八五円とし、弁護人は賞与分も加え、この額に13/7を乗じて総額二五七三万七五三五円とするが、当裁判所は昭和四〇年同様給料一ヶ月分相当額の賞与を認め、雑資料(検第一五号)集計額一三八五万八九七三円に13/7を乗じ二五七三万八〇九二円と認定するものである(弁護人主張額は違算)。

(二) 公租公課について(41-<6>)

検察官は、三月二五日支出の九万二七九〇円、組合費現金払分六万三〇〇〇円を公租公課として必要経費に計上しているが、関係証拠によれば前者は市民税の支払に充てたものと認められるから所得税法四五条一項四号により必要経費とはならないものであり、後者は支出内容に照らし会費勘定に計上すべきものである。又、関係証拠によれば、一月二五日に公租公課についての戻り金八九二六円が存することが認められる。そこで、以上の各金額を検察官主張額から差し引き、当年分の公租公課は六三二万七九九〇円と認定する。

(三) 広告、宣伝費について(41-<9>)

弁護人は、(1)文学同盟に対する五月二四日一〇万円、六月二〇日支出の韓中高校文化祭寄付五万円、一〇月二五日支出の朝鮮中央芸術団広告料五万円、朝鮮新報社に対する一〇月三一日二五万円、一一月三〇日二五万円の各支出及び(2)支出日は明らかでないが昭和四一年中に朝鮮中央芸術団、初級学校、中高級学校、朝鮮商工新聞、朝鮮青年同盟、朝鮮大学校に支出した合計三六〇万円を広告宣伝費に計上すべき旨主張し、被告人これらの支出はいずれもプログラムその他への広告掲載代金であると供述するので検討するに、関係証拠によれば、(1)の支出は認められるものの、(2)については客観的に支出を証する資料はないうえ、右いずれについても支出先、支出金額等に照らし、昭和四〇年分と同様、事業との関連が認められないものであるから、弁護人の主張は採用できない。

(四) 交際費について(41-<10>)

弁護人は、大丸に対する支出合計五〇万五五五四円(二月九日八万二五二〇円、四月一八日二万四一六〇円、六月一一日一七万六六六〇円、七月七日一万九三八〇円、八月九日二万五〇二〇円、九月六日二万〇四五四円、一〇月七日六万二三八〇円、一一月九日五万九七八〇、一二月七日三万五二〇〇円)及び高島屋に対する四月一五日一万七四〇〇円の支出は金融関係者等への贈答品代であるから交際費に計上すべきであると主張し、被告人も右に沿う供述をするので検討するに、関係証拠によれば、右主張どおりの支出が存在することは認められるが、領収証綴(検第二九号)によれば、大丸に対する八月九日の支出(八月五日振出しの小切手決済金)は、ハンカチ、女児ワンピース、男児ブラウス、ツリ半ズボンの購入代金であり、九月六日の支出(九月五日振出しの小切手決済金)は、シヨーツ、スカーフ、ソックス、化粧品等の購入代金であると認められ、それ以外については直接支出内容に関する客観的資料はないものの、右支出内容、昭和四〇年分の大丸等に対する支出内容等を併せ考えると、いずれも被告人の事業と関連のあるものとは認められず、弁護人の主張は採用できない。

(五) 修繕費について(41-<11>)

弁護人は、実宏電装に対する五月七日三〇万三九〇〇円、七月六日一五万円、七月八日四〇万円、竹口電気に対する五月九日一〇万六〇〇〇円、大元建設に対する八月一日三〇万円、岡本時計店に対する八月六日一五〇〇円、京都トヨペットに対する一〇月一八日二〇万三三一〇円、河本電気に対する一一月七日一八万九三六〇円、同月二四日二〇万円、一二月七日二〇万円、昭和四二年二月一一日二四万二七五〇円(同四一年一二月五日振出しの小切手決済金)の各支出を修繕費に計上すべき旨主張するので以下検討する。

関係証拠によれば、右主張の支出が存することが認められる。そして、実宏電装、竹口電気、大元建設、河本電気に対する各支出は、新装開店の際のシマ工事等の関係費用と目されるので、昭和四〇年分同様(二の(五)参照)修繕費に計上することとする。又、岡本時計に対する支出も支出先、支出金額に照らし修繕費として支出された可能性も否定できないから、修繕費に計上することとする。

しかし、京都トヨペットに対する支出は、銀行帳(検第三一号)、調査てん末書(検第六三号)によれば、一〇月一五日振出の小切手二通(額面一五万九〇〇〇円(小切手番号八五九六)、同四万四三一〇円(同八五九七))の決済金であると認められるが、領収証綴(検第二九号)中に京都トヨペツトの中山しげ子宛の一〇月一五日付「一五万九〇〇〇円、RT四〇-b頭金、小切手により領収」、「五一万七〇〇〇円、RT四〇-b車両代金」と各記載のある領収書が存し、中山しげ子とは被告人の妻錘善の別名と目されることに照らすと、本件一五万九〇〇〇円及び四万四三一〇円は、被告人の妻名義の新車購入代金に充当されたものと認められるから、修繕費に該らないことは明らかであり、この点に関する弁護人の主張は採用できない。

(六) 支払手数料について(41-<13>)

弁護人は、八月一五日支出の登記費用四万九九三〇円、一一月三〇日支出の登記費用五万円、一二月九日支出の俣野事務所に対する八万四四五九円を支払手数料として必要経費に計上すべきものと主張するので以下検討する。

関係証拠によれば、右主張どおりの支出が存するところ、被告人は、一一月三〇日の五万円は九条店裏の従業員寮建築の際の登記手数料であり、一二月九日の八万四四五九円は従業員宿舎建設のため購入した北区大宮の土地の登記手数料である旨供述し、右を不合理と断ずる理由もないので、右支出については支払手数料として必要経費に計上することとする。しかし、八月一五日の支出について、証人田村(七三回公判)は、石山店の店舗を担保にした借入金の返済による担保設定登記を抹消した際の費用であり、この借入金は、被告人から中山観光に転貸されており、被告人の事業には利用されていない旨供述しており、右借入金自体被告人の事業に直接関連するものとは認められないから、右借入金返済に伴う担保抹消登記費用も事業との関連性はなく、この点に関する弁護人の主張は採用できない。

(七) 賄費について(41-<15>)

前期三の(七)記載のとおり弁護人主張の副食費三〇七万五四二九円を加算し、総額四五一万七〇三三円と認定する。

(八) 福利厚生費について(41-<16>)

弁護人は、安田テーラーに対する三月二八日五万円、四月一三日五万円、一一月八日七万五〇〇〇円、関西労災病院に対する四月一八日四万五三四九円、ヤクルト代同月二八日二五九〇円、九月二一日五一六〇円、一一月八日五二四六円、ワシントンに対する五月九日二万四〇〇〇円、七月七日一万五〇〇〇円、衣川洋服店に対する一一月一七日五万〇五〇〇円、一二月三日二万六〇〇〇円、松井病院に対する同月一四日六万四七七〇円、乾洋服店に対する同月三一日二万七〇〇〇円の各支出を福利厚生費に計上すべき旨主張するので、以下検討する。

関係証拠によれば、右主張の支出の存在が認められる。そして、安田テーラーに対する三月二八日、四月一三日の各支出及びワシントンに対する支出はいずれも昭和四〇年分と同様の理由により福利厚生費に計上する(二の(七)参照)。又、被告人は、関西労災病院及び松井病院に対する支出は従業員の勤務中の傷害治療費であり、乾洋服店に対する支出は従業員の制服代である旨供述し、これを不合理と断ずる理由もないので、この支出も福利厚生費に計上する。

しかし、被告人は、一一月八日の安田テーラーに対する支出及び衣川洋服店に対する支出は、北沢専務、新川正克、新川正人、三浦健二に贈つた背広代である旨供述しており、この部分については制服代等事業に直接関連するものとは認められず、又、ヤクルト代については領収証綴(検第二九号)等の関係証拠に照らすと、被告人の家庭用のものと認められるから、いずれも福利厚生費には計上しないこととする。

なお、福利厚生費の現金払分については、検察官は三二万一四三五円であるとするが、関係証拠によれば、弁護人主張額の三一万八六四五円となる。

(九) 会費について(41-<18>)

弁護人は、(1)韓国青年同盟に対する七月二五日五万円、同月三〇日五万円、朝鮮留学生に対する七月二六日五万円の各支出、及び(2)支出日は明らかでないが昭和四一年中に第一初級学校、中高級学校、朝鮮総連京都府本部、京都府商工会、朝鮮総連中央、朝鮮留学生同盟に支出した合計四二〇万円の支出を会費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、右(1)記載の各支出の存在は認められるが、右(2)記載分については支出を証する客観的資料は見当らないうえ、右いずれも昭和四〇年分と同様、被告人の事業との関連性が認められないから必要経費には該らないものである。

また、弁護人は滋賀県民団体本部及び科学者協会に対する支出も会費に計上すべき旨主張するが、右については検察官も雑費(必要経費)に計上しており、その取扱いで不合理とはいえないので、弁護人の主張は失当である。

なお、現金払分について、検察官は八万八四七〇円とするが、四の(二)記載のとり、組合費六万三〇〇〇円を加算し、一五万一、四七〇円と認定する。

(一〇) 雑費について(41-<20>)

弁護人は、京龍に対する六月七日六万六〇〇〇円の支出及び一一月二五日の玉山弁護料五万円を雑費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、右支出の存在が認められるところ、被告人は前者は京龍電気に支払つた九条店の配電室の修理代であり、後者は自分が面倒をみていた親戚の玉山鐘平の外国人登録報違反事件の弁護料である旨供述しており、右に関する客観的資料は存しないが、前者は事業関係の支出である可能性があるので、雑費に計上することとするが、後者については被告人供述のとおりとしても事業との関連性がないので雑費には計上しない。

(一一) 支払利息について(41-<21>)

弁護人は、昭和四〇年分同様簿外の支払利息があるとして縷々主張するが、同四〇年分と同様の理由により、弁護人の主張は採用できない(二の(九)参照)。

(一二) 減価償却費について(41-<22>)

検察官及び弁護人の各主張額(検察官については減価償却計算書(検第七七号)記載の額)は別表2--(3)--<1>、<2>記載のとおりであり、両者の主張額に差異が生ずるのは、(1)建物の取得価格をどうみるかという点と(2)検察官が資本的支出であるとして減価償却費を計上している分につき、弁護人は修繕費であるとして減価償却費を計上していない点にある。当裁判所は、右の点につき昭和四〇年分と同様に認定し、別表2--(3)--<1>、<2>記載のとおりの額を減価償却費に計上することとする。

(一三) 図書新聞費について(41-<23>)

弁護人は、東寺書院に対する昭和四二年一月一六日(同四一年一二月三日振出しの小切手決済金)一、三二〇円の支出を図書新聞費に計上すべき旨主張するが、銀行帳(検第三一号)などの関係証拠によると、右小切手は決済されておらず、右支出自体認められないから、弁護人の主張は採用できない。

(一四) 旅費交通費について(41-<24>)

弁護人は、九月二日支出の一二万円は北海道旅行費用であり旅費交通費に計上すべきであると主張するので検討するに、関係証拠によれば、右支出の存在が認められるうえ、被告人は右北海道旅行は従業員募集のためのものである旨供述しており、これを不合理と断ずる理由もないので、右支出を旅費交通費に計上することとする。

五、昭和四二年分売上について(42-<1>)

検察官は、売上金額について直接証拠の存しない分について、出玉金額及び出玉率から推計計算して売上額を算出する(<省略>)。詳細は検察官の昭和五六年二月二七日付「昭和四二年度売上に関する立証趣旨補充書の訂正」と題する書面参照)。これに対し弁護人は、検察官が推計に用いた実額資料はごく限られた期間の僅少なものであるうえ、出玉率というものは競争店との関連などにより人為的に操作する個別性の強いものであるから、一部の出玉率を他の推計に利用すること自体合理性を欠くものであり、しかも検察官の推計方法も被告人に不利な形でなされているから、検察官の本件売上算定は不当なものであり、昭和四〇年、同四一年同様、会計帳簿等を基礎に算出すべきである旨主張する。そこで以下この点について検討する。

(一) 本件推計方法の合理性について

逋脱所得の金額認定にあたつては、いわゆる推計の方法、すなわち財産・負債の増減、収入・支出の状況その他間接的な資料から所得金額を推認して認定する方法も、その方法が経験則に照らして合理的である限りにおいては、当然に許容されるべきものであり、要は、それによつて合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の証明が得られれば足りるものと解される(最高裁判所昭和五四年一一月八日決定、刑集三三巻七号六九五頁参照)。そこで、まず、本件推計方法の合理性について考察する。

検察官の本年分売上額の認定方法は、

(イ) 売上金額全額を直接証拠により算定したもの(府庁前店の一〇月ないし一二月分。長岡店の一月ないし一二月分。石山店の六月ないし一二月分)

(ロ) 当月分の一部の売上金額が直接証拠上認められることから、これを当月分全額に引き延ばして算定したもの(九条店の一一、一二月分。今出川店の一一月分)

(ハ) 売上金額について直接証拠がないため、<省略>の算式で推計するが、出玉金額にあてはめて算定したもの(九条店の三月ないし一〇月分。府庁前店の三月ないし九月分。今出川店の三月ないし九月分。石山店の三月ないし五月分)

(ニ) 右同様の算式で推計するが、出玉金額、出玉率とも直接証拠がないため、直接証拠の存する他の月の数値をあてはめて算定したもの(九条店の一、二月分。府庁前店の一、二月分。今出川店の一、二、一〇、一二月分。石山店の一、二月分)

の四つは大別されるが、いわゆる出玉率、出玉金額による推計の合理性が問題となるのは、右(ハ)、(ニ)の部分(全体の約五分の三)であり、当年分中五分の二ほどについては直接証拠により実額認定されている。そして、本件推計部分については、売上額自体についての直接証拠は存しないのであるから何らかの方法による推計認定が必要となるが、弁護人の主張する預金入金分や経費支出分から売上金を認定する方法も一種の推計方法であり、本件出玉金額、出玉率による推計方法が、客から被告人の手元に入つた入金側からの直接的な推計方法であるのに対し、弁護人主張の方法は、支出の側面から売上額を推認するという間接的な方法であり、しかも関係証拠によれば、売上金の発生(客が玉を買うこと)-各店で集計-本店で集計-本店で保管-預金、出勤という経緯を辿ることが認められ、その間で抜取、違算等の介在する可能性も否定できない算出方法であつて、前者(出玉推計)の方がより直接的な推計と言いうるものである。更に、本件出玉金額、出玉率はいずれも同じ店舗における時期的にも隣接した月の数値をあてはめいわゆる自店対比方法であり、同業者比較法等に比し、より個別的、直接的であること、東寺の幹部従業員である証人李鉱在は、昭和四〇年当時の九条店の売上は一日四、五〇万円であつた旨供述しているが、本件推計方法による同店の同四二年分の売上額はほぼ右供述に見合う額であることなどの諸点を併せ考えると、本件推計方法自体は合理的なものと認められる。

(二) 出玉金額、出玉率の認定

右のとおり検察官の本件推計方法自体は合理的なものであるが、個々のあてはめ方法について、被告人側に不利益とみられる部分があるので、当裁判所は、別表3-(2)-<1>ないし<4>記載のとおり、被告人側に最大限有利な数値をあてはめて算定したものである(なお長岡店分については、全額直接証拠により検察官主張額のとおり認定できる)。

六、昭和四二年分必要経費について

(一) 給料賞与について(42-<5>)

昭和四二年分の給料賞与の支出については賃金台帳等の直接証拠が存しないため、検察官は同四一年分とほぼ同額の二、四〇〇万円を計上し、弁護人は中山観光の従業員の平均給与から推計して三、三二八万五、三三〇円を計上すべき旨各主張する。そこで検討するに、弁護人は中山観光の確定申告書(弁第三九号、四〇号)に記載されている中山観光従業員の平均給与額を本件従業員の給与にあてはめて推計しているが、右申告書はあくまでも税務署に対する申告書にすぎず、実際に右記載金額が支払われたかどうかを客観的に証明するものではないうえ、中山観光はパチンコ店のみならずホテル、喫茶店も経営しており、本件パチンコ店と業種自体異なる部分があることなどを併せ考えると、右推計方法は合理的なものとはいえず、又、検察官の推計方法は賞与支払及び給与上昇を考慮しない点で失当である。ところで、前記認定のとおり(二の(一)、四の(一))、昭和四〇年分と同四一年分の支払給与額を対比すると約一対一 一三六となつており、給与は一年間に約一割四分増額されていることが認められるから、同四二年分も同四一年分に比し一割四分の割合で増額されたものと解し、総額二、九三四万一、四二五円を計上することとする。

(二) 公租公課について(42-<6>)

弁護人は、四月一七日支出の自動車税一万〇、五〇〇円、七月二八日支出の北府税五万二、一二〇円、八月一二日支出の源泉税二万六、九六〇円、一二月一二日支出の同三万六、七二〇円、同月二一日支出の北府税一〇万四、七五八円を公租公課に計上すべき旨主張するので検討する。関係証拠によれば、右主張どおりの支出の存することが認められるところ、被告人は、四月一七日の自動車税は、妻の全鍾善名義の自動車の取得税であり、妻は各店の賄いの指導その他被告人の事業のために自動車を利用していたものであり、七月二八日、一二月二一日の北府税は、従業員宿舎建設のために購入した北区大宮の土地取得税である旨供述しており、関係証拠によれば、被告人の妻も被告人の事業の手伝いをしていたこと(当時は、事業専従者控除の対象となつている。)は認められるもののその他の事実については客観的資料はないが、被告人の供述を不合理と断ずる理由もないので、右支出を公租公課に計上することとする。また、源泉税について被告人は何ら供述をしておらず、支出内容に関する客観的資料も存しないが、検察官の昭和五六年一月二八日付立証趣旨補充書、同意引用の資料Ⅳ及び関係証拠によれば、検察官も一、二、四、五、六、八、九、一〇月分の各源泉税支出については公租公課に計上していることが認められ、ことさら七、一一月分のみを除外する理由も見出しえないので、これについても公租公課に計上することとする。

(三) 広告宣伝費について(42-<9>)

弁護人は電宣に対する一二月五日一万九、〇〇〇円の支出を広告宣伝費に計上すべきであると主張するので検討するに、関係証拠によれば右支出の存在が認めらるうえ、被告人は右支出は石山店の商店街に広告灯を設置した時の各店割当の負担金である旨供述しており、右供述を不合理と断ずる理由もないので、右支出を広告宣伝費に計上することとする。

(四) 交際費について(42-<10>)

弁護人は、大丸に対する支出合計六七万三、七一〇円(一月九日一一万九、六三〇円、二月六日四、三〇〇円、三月一八日一三万一、三八〇円、五月一〇日一〇万二、二〇〇円、六月五日二万〇、八三〇円、七月七日四万三、二三〇円、八月八日三万一、二〇〇円、九月七日七、七〇〇円、一一月九日四万六、九三〇円、一二月八日一六万六、三一〇円)、南大門に対する六月五日四万二、五四〇円、第一ゴルフ京都店に対する七月一日一二万八、〇〇〇円の各支出を交際費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、大丸及び第一ゴルフに対する支出は認められるが、南大門に対する支出は、六月五日付の小切手(番号四九六一九)によりなされたものの、右小切手は一一月二〇日に被告人の当座預金口座に預入れられており支出の存在自体疑わしいうえ、右支出は、いずれも事業と直接関連するものとは認められないから弁護人の主張は採用できない(大丸に対する支出につき昭和四〇年、四一年分参照)。

(五) 修繕費について(42-<11>)

弁護人は、河本電気に対する二八七万円(三月一五日七万円、六月一二日三〇万円、同月一六日三五万円、同月一九日二五万円、同月二一日二五万円、七月一〇日三五万円、一〇月一八日一五万円、同月二〇日一五万円、昭和四三年三月二三日三〇万円、同月三〇日三〇万円、四月二日四〇万円(前三者はいずれも同四二年一二月三〇日振出しの小切手の決済金))、豊栄工務店に対する二〇五万円(一二月二一日三五万円、同四三年一月二七日三〇万円、二月一三日四〇万円、四月一三日三〇万円、同月一七日三〇万円、同月二〇日四〇万円(同四三年に支出されたものはいずれも同四二年中振出された小切手の決済金))、中野政弥に対する同四三年四月一〇日二〇万円(同四二年一二月三〇日振出しの小切手決済金)の各支出を修繕費に計上すべき旨主張し、関係証拠によれば右支出の存在が認められるので、その支出内容に関する客観的資料は見出しえないが、昭和四〇年及び同四一年分と同様の理由により、修繕費に計上することとする(二の(五)、四の(五)参照)。

(六) 消耗品費について(42-<12>)

弁護人は土田ムセンに対する一二月五日二、〇〇〇円の支出(小切手(番号九七〇二)による決済)を消耗品費に計上すべきと主張するので検討するに、証人田村の供述、調査てん末書(検第六三号)によれば、右小切手は振出されたものの交換取立はされておらず、右支出自体において認められないものであるから、弁護人の主張は採用できない。

(七) 支払手数料について(42-<13>)

弁護人は、七月一四日支出の登記費用八万八、五七〇円を支払手数料に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば右支出の存在は認められるところ、被告人及び証人田村の供述によれば、右支出は被告人が自宅を担保に関西相互銀行から金を借り入れた際の登記費用とみられる右借入金が被告人の事業に使用された可能性も否定できないから、弁護人の主張を採用し、支払手数料に計上することとする。

(八) 賄費について(42-<15>)

昭和四〇年及び同四一年分同様一人一日一〇〇円当りの副食費を見目、検察官主張額に二九六万七、四五〇円を加算する。

(九) 福利厚生費について(42-<16>)

弁護人は、二月一六日の若草学園編物機四万六、〇〇〇円、テーラー安田に対する三月九日一万五、〇〇〇円、五月一日五万二、〇〇〇円、一二月六日五万四、〇〇〇円、衣川洋服店に対する三月一五日一万六、〇〇〇円、ミドリヤに対する五月二〇日四万円、片木シャツに対する八月八日一万七、〇〇〇円、まつや化粧品に対する八月九日九、七〇〇円、九月九日三、七〇〇円、一〇月五日六、八〇〇円、一一月一四日九、〇五〇円、一二月一二日五、七〇〇円、中野幸助に対する一〇月五日一八万〇、一一〇円、一一月九日一〇万二、〇〇〇円、藤野タンスに対する一二月二六日三〇万円の各支出を福利厚生費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば右支出の存在が認められるところ、被告人は、若草学園編物機代は女子従業員の編み物講習用に買入れた編物機代であり、テーラー安田、衣川洋服店、片木シャツに対する支出は従業員の制服代であり、まつや化粧品店に対する支出は各店舗の台所に発生するゴキブリの殺虫剤代及び従業員部屋の蚊取線香代等であり、ミドリヤに対する支出は各店舗備付けの植木鉢代であり、中野幸助に対する支出は従業員の寝具買入、仕立直し代金であり、藤野タンスに対する支出は従業員用の小型タンス、各店舗従業員用食堂のテーブル、腰掛け等の購入代金である旨供述しており、これを裏付ける客観的資料は存しないが、関係証拠に照らすと右供述は必ずしも不合理なものとはいえないので、右支出を福利厚生費に計上することとする。

(一〇) 保険料について(42-<17>)

弁護人は、一〇月一七日支出の自動車保健三万八、五五〇円を保険料に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば右支出の存在が認められるところ、右支出について、被告人は、営業用に利用していた被告人名義の車の保険料であると供述し、証人田村は、被告人の妻名義の車の保険料であると供述しており、本件自動車の名義人が問題となり、この点に関する客観的資料がないためいずれとも断じ難いところであるが、仮に妻名義のものとしても前記のとおり(六の(二))、事業に利用していた可能性も否定できないので、右支出を保険料に計上することとする。

(一一) 会費について(42-<18>)

弁護人は、第一初級学校に対する六月一九日五万円、九月一八日五万円、一二月一九日五万円、昭和四三年三月一八日(同四二年四月一七日振出しの小切手決済金)五万円、科学者協会に対する同四三年六月二三日(同四二年一二月二九日振出しの小切手決済金)二〇万円を会費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば、右支出の存在は認められるが、昭和四〇年及び同四一年同様(二の(八)、四の(九)参照)被告人の事業との関連性が認められないから弁護人の主張は採用できない。

(一二) 運賃について(42-<19>)

弁護人は、丸新工業に対する八月二五日二万三、四〇〇円を運賃に計上すべき旨主張するので検討するに、銀行帳(検第三一号)、田村証言(七四回公判)などの関係証拠によれば、右支出の存在及び右支出は被告人が丸新工業からパチンコ機を購入した際に同機を被告人の店舗まで運送した費用であることが認められるが、右代価は減価償却資産の取得価額とすべきものであるから、弁護人の主張は採用できない。

(一三) 雑費について(42-<20>)

弁護人は、昭和四三年一月四日の京都南(許山今)公課四、三〇〇円(同四二年一二月三〇日振出しの小切手決済金)を雑費に計上すべき旨主張するので検討するに、関係証拠によれば右支出の存在は認められるところ、被告人は、右支出は九条店の従業員用の米代である旨供述するが、調査てん末書(検第六三号)の摘要欄には「京都南公課」と記載されており、米代とは到底解し難いものであり、右支出が事業と関連するものとも目されないから、弁護人の主張は採用できない。

(一四) 支払利息について(42-<21>)

弁護人は、簿外の支払利息があるとして縷々主張するが、昭和四〇年及び同四一年と同様の理由により弁護人の主張は採用できない(二の(九)、四の(二)参照)。

(一五) 減価償却費について(42-<22>)

検察官、弁護人の各主張及び当裁判所の認定額は別表3-(3)記載のとおりである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するところ、右は犯罪後の法律により刑の変更があつたときにあたるから、刑法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、いずれも情状により所定の懲役及び罰金を併科することとし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、右加重した刑期及び合算した金額の範囲内で被告人を懲役八月及び罰金一、五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により主文記載のとおり被告人に負担させることとする。 よつて、主文のとおり判決する(求刑懲役一年及び罰金三〇〇万円)。

(裁判長裁判官 内匠和彦 裁判官 横田信之 裁判官伊藤正高は、転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 内匠和彦)

別表1-(1)

修正損益計算書

金竒權

自 昭和40年1月1日

至 昭和40年12月31日

<省略>

(注)1.説明欄の「二の(一)」などの数字は弁護人の主張に対する黙断」の「第二、損益勘定科目の金額認定について」中の説明部分を示す。

2.「違算」とは、検察官又は弁護人の主張額と裁判所の認定額に差異があるのは検察官又は弁護人の差異が主な原因であることを示す。

3.「科目欄」とは、検察官又は弁護人の主張額と裁判所の認定額に差異があるのは科目の振り分けの違いが主な原因であることを示す。

4.別表2-(1)、3-(1)も上記と同様である。

別表1-(2)

昭和40年分売上(40-<1>)

<省略>

別表1-(3)

リフト償却額の計算

<省略>

別表2-(1)

修正損益計算書

金竒權

自 昭和41年1月1日

至 昭和41年12月31日

<省略>

(注) 検察官が昭和56年9月4日付修正損益計算書で譲渡所得のマイナス分に計上しているものは、除却損とも評価しうるものなので、本計算書では除却損科目に計上した。

別表2-(2)

昭和41年分売上(41-<1>)

<省略>

別紙2-(3)

減価償却費-昭和41年分(41-<22>)

<省略>

別表3-(1)

修正損益計算書

金竒權

自 昭和42年1月1日

至 昭和42年12月31日

<省略>

(注)1.検察官が昭和56年9月4日付修正損益計算書で譲渡所得のマイナス分に計上しているものは、除却損とも評価しうるものなので、本計算書では除却損科目に計上した。

2.△はマイナスの意である。

別表3-(2)-<1>

昭和42年売上 九条店(本店)

<省略>

別表3-(2)-<2>

昭和42年売上 府庁前店

<省略>

別表3-(2) <3>

昭和42年売上 今出川店

<省略>

別表3-(2)-<4>

昭和42年売上 石山店

<省略>

別表3-(3)

減価償却費-昭和42年分(42-<22>)

<省略>

別表4

主な資産負債の増加額

<省略>

別表5

脱税額計算書

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例